2026年3月16日
盗撮・下着泥棒(色情盗)はやめられるか?〜単なる性欲ではない「行為依存」のメカニズム〜
今回は、盗撮や下着泥棒(専門用語で「色情盗(しきじょうとう)」と呼びます)を繰り返してしまう問題についてお話しします。
ご家族が逮捕されたり、ご自身がやめられずに悩んでいたりする場合、「性癖が異常なのではないか」「もう一生治らないのではないか」と絶望される方が非常に多くいらっしゃいます。
しかし、数多くの刑事事件を扱ってきた私の考えから申し上げますと、これらは単なる「異常な性欲」の問題ではありません。
窃盗症(クレプトマニア)などの「行為依存」がベースとしてあり、そこに個人的な性的嗜好が加わった発展型の問題であると捉えることで、初めて解決の糸口が見えてきます。

盗撮や色情盗の複雑なメカニズムを紐解くには、まずベースとなる「行為依存」のシンプルな構造を理解することが一番の近道です。
当事務所の「窃盗症(クレプトマニア)」のコラムにて、この行為依存の基本を分かりやすく解説しておりますので、本記事と併せてまずはそちらをご一読いただくことをお勧めします。
検察の厳しい目:「性欲を抑えられなかった」は通用しない
盗撮や色情盗で捕まった方の多くは、「ムラムラして、つい衝動的にやってしまった」「性欲を抑えられなかった」と弁解します。
しかし、元検事の視点から言えば、検察庁はこの言い訳を決して信用しません。
なぜなら、実際の犯行状況を見ると、「靴に小型カメラを仕込んでいる」「ターゲットを物色し、時間をかけて尾行している」「下着を盗むために、事前に侵入経路を入念に下見している」といったケースが非常に多いからです。
検察官はこれらの証拠から、「ふとした衝動でやったにしては、あまりにも理路整然としている。
これはコントロール不能な衝動などではなく、自分の意思で行った悪質で計画的な犯行だ」と厳しく判断します。
「行為依存」の観点から分析する犯行準備の謎
では、なぜ「衝動」と言いながら、入念な準備や下見をしてしまうのでしょうか。

ここに、この問題が行為依存である決定的な理由が隠されています。
依存の対象は「写真を撮る」「下着を手に入れる」という最終的な結果だけではありません。
「ターゲットを探す」「見つかるかもしれないリスクを冒して尾行する」「カメラをセットする」という一連のプロセス(儀式)そのものが、脳に強烈なスリルやドーパミンを与えているのです。
つまり、入念な準備や下見は「計画的な悪意」というよりも、依存行為のプロセスをたどり、脳の報酬系を満たすための「ルーティン」に組み込まれてしまっている状態だと言えます。
このメカニズムを法廷できちんと説明できなければ、単なる「計画的で悪質な性犯罪者」として重い処分を下されてしまいます。
なぜ「社会的に真面目な人」が繰り返してしまうのか
実は、盗撮や色情盗で逮捕される方の多くは、職場や地域で「非常に真面目で優秀」「おとなしくてトラブルを起こすような人ではない」と評価されている方々です。
「あんなに真面目な人がなぜこんな性犯罪を…」と周囲は驚き、信じられない思いを抱きます。
しかし、「行為依存」の観点から見れば、これは全く矛盾しません。
むしろ、説明がつくのです。

社会的に真面目で責任感が強い人ほど、日々のプレッシャーや人間関係の摩擦、職場での過労といったストレスをうまく周囲に吐き出せず、一人で抱え込んで限界を迎えてしまう傾向があります。
その極限のストレスから逃避し、ギリギリのところで心のバランスを保つための「自己治療」として、誰にも知られない秘密のスリル(盗撮や下着泥棒というプロセス)に強烈な快楽と安心感を見出してしまうのです。
真面目すぎるがゆえの抑圧が、依存行為への引き金となっているケースは決して珍しくありません。
【専門家対談記事のご紹介】
なぜ真面目な人が盗撮に走るのか。
性欲から「行為依存」へと変わる脳内メカニズムについて、行動依存症を研究されている京都大学大学院の後藤幸織准教授と私が対談した記事が『弁護士JPニュース』にて公開されております。
脳科学の観点からさらに深く、分かりやすく解説していますので、ぜひこちらもご一読ください。
▶︎ 『「真面目な人」がなぜ盗撮で逮捕されるのか? 性欲から“依存”に変わる…脳科学が示す再犯のメカニズムとは』(弁護士JPニュース)
薬物治療の限界と、根底にある心理的背景
この分野の医学的な論文などでは、抗アンドロゲン薬などの「性欲を抑える薬」を用いた治療法が報告されることもあります。
確かに、物理的に性欲を抑え込むことで、一時的に行為自体をストップさせる効果は期待できるかもしれません。
しかし、根底にあるベースが「行為依存」である以上、薬への依存だけでは解決しません。
先述した通り、本人ですら「性欲のせいだ」と思い込んでいますが、深層心理を紐解くと「慢性的なストレス」や「孤立感」からの逃避手段として利用しているのです。この根本的な心理的背景を把握し、認知の歪みを修正する治療を行わなければ、薬をやめた途端に再発したり、万引きなど別の行為依存にスライドしたりする危険性があります。
家族を襲う強烈な「嫌悪感」と、どう向き合うか
盗撮や色情盗という行為は、万引きなどの犯罪以上に、ご家族(特に奥様や母親)に強烈なショックと生理的な嫌悪感を与えます。
「夫のスマートフォンから、信じられないほど大量の盗撮画像が見つかった」
「息子の部屋の奥に、見知らぬ女性の下着が隠されていた」
こうした現実に直面したご家族が、「あんな変態的な性癖があったなんて気持ち悪い」「今まで一緒に暮らしてきた家族が、見知らぬ性犯罪者に思えて背筋が凍る」「もう生理的に無理だから離婚したい」と感じるのは、ごく自然で当たり前の感情です。
その嫌悪感や恐怖心を無理に押し殺す必要はありません。
しかし、本人が家族から完全に見放されて孤立し、さらなる強いストレスに晒されることは、行為依存を悪化させ、再犯の確率を最も跳ね上げる要因になります。
ご家族に知っていただきたいのは、これは単なる「本人の卑劣な性格」や「道徳心の欠如」ではなく、脳の報酬系が誤作動を起こしている「治療が必要な状態(行為依存)」であるということです。
「得体の知れない変態的な性癖」ではなく「メカニズムのある依存症」だと客観的に理解することが、ご家族自身の精神的なショックを少しでも和らげ、適切な医療へと繋ぐための第一歩となります。

後悔しない「病院選び」と「弁護士選び」について
盗撮や色情盗は、本人の反省や意志の力だけでやめられるものではありません。
検察や裁判所に「単なる計画的な性犯罪ではない」と論理的に説明し、適切な情状弁護を行うためには、行為依存のメカニズムを熟知した弁護士と、根本的な治療を行える医療機関との連携が不可欠です。
そして、この問題を「行為依存の発展型」として捉える以上、専門家(医師や弁護士)を選ぶための客観的な基準は、先にご紹介した「窃盗症(クレプトマニア)」の場合と全く同じになります。
知識がなくても後悔しないための具体的な専門家の選び方については、冒頭でもご案内した「窃盗症(クレプトマニア)」のコラムの後半部分にて詳しく解説しておりますので、ぜひそちらをご参照ください。
当事務所では、行為依存の観点からの弁護活動に力を入れており、専門の医療機関と連携しながら、再犯防止と根本的な立ち直りを目指しています。
ご自身でコントロールができずにお悩みの方、あるいはご家族の逮捕で途方に暮れている方は、決して一人で抱え込まず、まずは一度当事務所へご相談ください。